秘密の地図を描こう

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  107  



 だが、彼女の存在はまだ序の口だったと言っていい。
「おや……てっきり、彼女に『失格』と言われると思っていたのだが」
 室内に足を踏み入れた瞬間、聞き覚えのある声が耳に届く。しかし、それこそ、今、ここで聞くとは思わなかった声だ。
「あなたは、死んだはずではなかったのですか!」
 アスランはとっさにこう叫ぶ。
「幸か不幸か、こうして生きているよ」
 そんな彼に向かって、ラウが穏やかな笑みとともに言葉を返してくる。
「それとも、私がここにいない方がよかったのかな?」
 逆に彼はこう問いかけてきた。
「そう言うわけではありませんが……」
 どうしてここにいるのか。それがわからない。
「……隊長」
 そんな彼の内心を察したのだろうか。ニコルが脇から口を挟んでくる。
「キラさんは?」
「先ほど、あの男が来てね。診察室に拉致していったよ」
 彼女と一緒に、とため息をつく。
「君たちが来るから、と言うことで、私はここに残っていたわけだ」
 苦笑とともに彼はそう言う。
「議長が、ですか?」
 彼がどうして、とアスランは思わず呟く。
「キラ君がここに来てからずっと、あの男が主治医だよ。不本意だが、私の主治医もね」
 だからおかしいことではないだろう、とラウは言い返してくる。
「これから忙しくなるだろう。その前にと考えたのではないかな」
 キラはカガリ達から預かっている状況だし、と彼は続けた。
「いずれはあちらに戻るのかもしれないが……あくまでも本人の意思次第だろうね」
 確かに、キラの意思を無視して何かを強要することはできない。ああ見えて、彼はものすごく頑固なのだ。
「とりあえず、座っていたまえ。そのうち戻ってくるだろう」
「そうですね。アスラン、お言葉に甘えましょう」
 ラウの言葉にニコルはすぐに同意を見せる。
「しかし……」
 何故、ここで当然のような表情で彼が指示を出しているのか。
「今、キラさんの護衛役は隊長がされています」
 と言うよりも、キラの面倒を見ている方が正しいのだろうか。そうニコルが教えてくれる。
「キラさんも隊長の言葉は素直に聞いてくれますし」
 やはり年齢のせいなのだろうか、とニコルは首をかしげ見せた。
「どうだろうね」
 そう言ってラウは首をひねる。
「彼はきちんと話せば納得してくれる。そのための時間が私にはあっただけだろう」
 キラと一緒に治療を受けていたからね、と彼はそのまま口にした。
 そう言われて、アスランは自分はそこまで真剣にキラと話し合ったことがあったか、と自分に問いかける。
 忙しいからと途中で切り上げたことの方が多いような気がする。
 それがいけなかったのだろうか。
 もし、あのとき、彼が何を悩んでいたのかを時間をかけて聞き出していたら、あるいはキラは自分に隠し事なんてしなかったかもしれない。
 だが、現実は違う。
 彼はラウやニコルには相談しても、自分にはそうしてくれない。
 ラクスに連絡は取っても、自分達にはしてくれなかった。
 つまり、自分はキラにとってそう言うレベルの存在になってしまったのだろうか。
「……アスラン、どうかしました?」
 ニコルが声をかけてくる。
「何でもない」
 そう言い返すが、内心は違った。何と言っていいのかわからない感情が己の中で渦巻いている。
「自分が何を間違っていたのか。それに気づくことが大切だろうね」
 意味ありげな声音でラウがそう言う。
「もっとも、考えている時間はそうないかもしれないよ?」
 確かにそうかもしれない。、しかし、彼にそう言われるとおもしろくないと考えてしまうのは自分のわがままなのか。
 アスランは自分でも訳がわからないまま、そんなことを考えていた。

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最遊釈厄伝